「Workplace Fairness Act(WFA)」職場公正法—2027年末施行へ
Authored by 大森 史子, シニアコンサルタント, パーソルコンサルティング シンガポール • 4 min read
ガイドラインから「法的義務」へ
職場公正法では、雇用における差別行為が明確に違法とされるとともに、企業には従業員からの申し立てに対応する社内苦情処理制度の整備が求められます。違反が認められた場合には、行政指導や金銭的ペナルティ、是正命令などの措置が取られる、また重大なケースでは裁判所での制裁につながる可能性もあり、企業にはこれまで以上に人事判断の透明性と説明責任が求められることになります。
保護対象となる11の属性
職場公正法では、採用、評価、昇進、研修、解雇など雇用に関するあらゆる場面において、特定の属性を理由とする不利益取扱いが禁止されます。対象となる属性は、年齢、国籍、性別、婚姻状況、妊娠、介護責任、人種、宗教、言語能力、障害、メンタルヘルスの11項目です。なお、性的指向や性自認については今回の法律には含まれていませんが、引き続き既存のTGFEPガイドラインの枠組みの中で扱われます。
紛争解決のプロセス
差別の申し立てがあった場合、まず企業内部での苦情処理を通じて解決を試みることになります。その後、第三者による調停を経て、最終的には裁判へと進む三段階の仕組みが想定されています。最終段階では Employment Claims Tribunal(ECT) または高等裁判所で審理が行われます。ECTは最大25万シンガポールドルまでの請求を扱う制度であり、比較的アクセスしやすい紛争解決手段として設計されています。
この制度設計からも分かるように、企業側としては紛争を社内で適切に処理できる体制を整えておくことが重要になります。
日系企業にとっての実務上のポイント
人事労務の観点から見ると、日系企業が特に注意すべきポイントは大きく三つあります。
第一に重要なのは、人事判断の説明可能性です。採用、評価、昇格といった意思決定について、職務要件や評価基準に基づいて合理的に説明できる状態を整備しておく必要があります。職務記述書(Job Description)や評価基準、昇格基準の明確化に加え、人事判断のプロセスを記録として残す仕組みも重要になります。
第二に、社内苦情処理制度の整備です。申し立てを受け付ける窓口だけでなく、事実調査、結論通知、再発防止までを含めた標準的なプロセスを整備しておく必要があります。また、申し立てを行った従業員への不利益取扱いの禁止や、調査過程における機密保持についても明文化することが求められます。
第三に、採用実務への影響です。求人広告において年齢、国籍、性別などを示唆する表現がこれまで通り認められなくなる一方で、例えば日系企業に多く見られる日本語能力等の言語能力については、職務上必要な場合に限り例外が認められる可能性がありますが、その合理性を説明できる形で要件を設定しておくことが重要です。また応募段階で写真の提出を求めることも認められません。
本社方針とローカル制度の整合
職場公正法は企業に対して、より透明性の高い人事運用を求めているとも解釈できます。その点において、シンガポール現地の人事方針や制度を日本本社の理解を得ながら設計しておくことが重要になります。
例えば、等級制度や評価基準などはグループ共通のフレームワークとして整備しつつ、報酬レンジや手当については現地市場に合わせて設計するといった、「グローバル共通+ローカル適合」の制度設計も有効と考えます。
おわりに
2027年末の施行までは一定の準備期間がありますが、特に人事制度の見直しには想像以上に時間を要します。企業としては今の段階から、人事ポリシーや就業規則の見直しを進め、職務要件や評価基準の整理、社内苦情処理制度の整備など、取り組めるところから着手しておくことが望ましいでしょう。
職場公正法は単なるコンプライアンス強化ではなく、人事制度やマネジメントの透明性を問う制度改革ともいえます。日系企業にとっては、現地化の推進と公正な雇用慣行の両立を図る契機となるでしょう。
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