シンガポール再雇用制度の概要

Authored by 大森 史子, シニアコンサルタント, パーソルコンサルティング シンガポール

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シンガポールでは、高齢化や出生率低下といった構造的課題に対応し、労働力人口を維持するために、定年後の再雇用制度を法制化しています。政府は、働く意欲のある人材が可能な限り労働市場で活躍し続けられることを国家戦略と位置付けており、企業には、再雇用の要件を満たし勤務継続を希望する従業員に対して雇用機会を提供する義務があります。

法定定年と再雇用義務

シンガポールの法定定年は2025年10月時点で63歳ですが、2026年7月に64歳へ、2030年までに65歳へと段階的に引き上げられる予定です。再雇用年齢についても現在は68歳であり、定年と併せて段階的に70歳まで引き上げられる計画となっています。
再雇用制度の対象者はシンガポール国籍者(Citizens)と永住権保持者(Permanent Residents)で、業務成績が良好であり、健康上勤務継続が可能であること、さらに、55歳を過ぎて入社した従業員については、63歳を迎えるまでに同じ雇用主の下で少なくとも2年以上勤務していることが条件となります。

契約の特徴と処遇

再雇用契約は通常1年ごとに締結され、契約の開始日は、従業員が定年年齢に達する誕生日となります。
再雇用後の職務は、必ずしも定年前と同一である必要はなく、健康状態・能力・業務上の必要性に応じて、企業と従業員の合意のもとで調整することができます。その場合、報酬や処遇条件を見直すことも可能です。
一方で、同一の職務や役職を継続する場合には、雇用条件は原則として従前と同じであることが求められます。

再雇用不可時の対応

企業が慎重に検討を行った結果、再雇用の機会を提供できない場合には、従業員の同意を得たうえで、再雇用義務を他の雇用主に引き継ぐことができます。しかし、新たな再雇用先を確保できない場合、あるいは確保できても従業員の同意が得られない場合には、企業は雇用支援金(Employment Assistance Payment:EAP)の支払い義務を負います。

EAPは再就職活動の生活支援を目的とする一時金で、月額給与の3.5カ月分(最低6,250ドル、最高14,750ドル)が基準とされています。ただし、63歳以降に30カ月以上再雇用された従業員については、2カ月分(最低4,000ドル、最高8,500ドル)での対応が可能です。

また、EAPは退職金とは別の制度です。そのため、独自に退職金制度を設けている企業は、EAPとは別に退職金の支払い義務が生じる点に注意が必要です。なお、シンガポールでは退職金制度は法定義務ではないため、必要に応じて制度見直しを検討することも可能です。

政府の支援策

シンガポール政府はシニア世代の雇用を推進するため、さまざまな助成制度を設けています。
例えば、シニア雇用助成金(Senior Employment Credit)では60歳以上の従業員を雇用・再雇用する企業に助成金を支給し、職務再設計助成金(Job Redesign Grant)では業務の簡素化や短時間勤務制度の導入を支援しています。さらに、リスキリングやキャリア転換支援も充実してきており、結果としてシニアを含むあらゆる世代の従業員の活躍が後押しされています。

実務上の留意点

再雇用については、定年を迎えるおおよそ6か月前を目途に社内で対応方針の検討を開始し、遅くとも3か月前までには本人へ意思確認を行うタイムラインを設定することをおすすめします。余裕をもって準備を進めることで、企業・従業員双方が安心して再雇用へ移行することができます。

また、処遇を変更する場合には、必ず合理的な理由を示したうえで従業員に説明し、理解を得ることが必要です。
日本では、再雇用にあたり雇用形態や雇用条件を一律に変更するケースも見られますが、シンガポールでは職務内容や能力に応じて個別に判断することが前提となっています。

おわりに

再雇用者を積極的に受け入れ、長く働き続けられる職場を醸成することは、多世代の強みを活かした協働を可能にし、組織の創造性と競争力を高めることに繋がる可能性があります。
シンガポールの人事労務に関してご不明点等ございましたら、どうぞお気軽に弊社までお問い合わせください。

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